工房主宰 荒井隆幸さん

全日制学科卒業
ジュエリーメーカー勤務後、独立

三十路半ば、人生の大方向転換

私は以前、とある産業用電子機器メーカで電気回路設計を担当していました。要求された機能が満たされる様に回路を設計し、要求された価格に見合う様に電子部品を選定し、要求された納期に合う様に工場と折衝し、という仕事は、およそジュエリーとはかけ離れた世界です。
思うところあって10年以上勤めた会社を辞め、「三十路半ば、人生の大方向転換」と称してクラフトに入学した訳ですが、正直年齢的には浮いた存在です。しかし学友に恵まれ、大変に中身の濃い学校生活を送りました。

職人にとって重要なのは「何ができるか」

ジュエリーに興味を持ちつつも業界へのルートが判らず、中々転職には至りませんでしたが、あるときたまたまインターネットで日本宝飾クラフト学院の存在を知ってしまい、しかも住まいに近い横浜教室が開校されるといいます。あとは転がるが如しでした(笑)。
他の学校の資料も取ったりしましたが、カリキュラム、学費、通学時間等を全体に検討し、恐らく自分に最も合っているであろうクラフト学院を選択しました。特に「好きなこと=作ること」だけではなく、接客や販売、マーケティングといった、将来仕事をする上では絶対に避けられない授業が組まれているのは、就職までを考えると大きな魅力です。

私の通っていた時分の横浜教室は大変に狭く、同期生もほんの数人でした。その為誰が何をやっているのかが良く見え、技術、スピード共にお互い競い合っていた感じがあります。年齢もまちまちですが(一回り下の女の子と机を並べていました)、同じ目標を持っていると、年齢は関係ありません。職人にとって重要なのは、年上か年下かではなく、純粋に「何ができるか」です。

残念ながら、学校で学んだことだけでお金を取れる商品が作れるかというと、多分それは無理です。市場に流通させる商品には、仕上がりの良さや強度、相応な加工賃が要求され、課題の様に「形ができていればまぁ良し」という具合にはいきません。
ですから、今仕事について一番役に立っているのは、カリキュラムの中で教わったことではなく、そこから範囲を広げて先生に教えを請い、学んだことです。あえて課題にプラスαの要素を加え、簡単に終えられるところを難しくする。簡単な仕事であれば誰にでもできます。将来自分の技術を売れるか否かは、誰にでもはできないことをどれだけできるかにかかっていると思います。

何よりも「辛抱」を覚えてください

30代半ばで全く異なる業界への転職が容易なことではないということは承知の上でしたが、案の定就職活動は大変でした。皆よりもほぼひと月遅れで、CAD担当として採用してくれる会社が見付かったのですが、それから1年余、今度は同じ会社内で彫り留め、彫刻の担当をさせて頂くことになり、日々特訓をしています。卒業後1年以上掛かって、漸く職人として歩き出せることになりました。

アドバイスをするとしたら、皆さん何よりも「辛抱」を覚えて下さい。大変だから、面倒だから、合わないからといって投げ出す人に、良い仕事はできませんし、自分の将来を変えることもできないと心得て下さい。

年齢のいっている方は、正直なところ職人としての就職は困難です。特に家庭を持っていて「再就職できないかも知れない」という綱渡りは、中々始められません。
でも、60歳70歳になってから「やっぱりあの時やっておけば良かった」と思いたいですか? 何かを始めてはいけない年齢というのはありません。
今日という日はこれからの人生の始まりの日、です。