クラスメイトとの交流が現在の仕事でも役立っています
美術系の大学在学中に、金属工芸専攻の友達に、自分で作ったワックス原型をキャスト(鋳造)してもらったのがジュエリーに興味を持ったきっかけです。その後、ジュエリー制作への関心が高まり、就職の紹介もしてくれる専門スクールである日本宝飾クラフト学院への入学を決めました。
学院では、大勢のクラスメイトと一緒に作業をしていたので、他の人がどんな作業や失敗をしているのか、参考にできたのは非常によかったですね(笑)。
また、講師が実際に制作の仕事をしている現役の職人だったため、現場で使われている道具なども具体的に教えてもらえたのも役立っています。クラスには年齢層やキャリアが様々な人がいて、そういった多様な人たちと交流できたのも楽しかったです。


JJAジュエリーデザインアワード2025
グランプリ・内閣総理大臣賞
日本真珠振興会会長賞
「Black & White-見えないものを観る」
デザイナー:株式会社 今与 沢村つか沙
制作:株式会社 今与 アトリエ室
学生とプロとの違いは納期と完成度
卒業後は神戸のアトリエでの勤務を経て、現在の会社に入社しました。現在はアトリエ室のマネージャーを務めており、キャリアは20数年になります。
仕事を始めて大きく変わったのは納期の存在です。学生時代と違い、どんなトラブルがあっても納期は必ず守らなければなりません。また、求められる完成度もプロとして全く異なります。さらに、ハイジュエリーを制作するようになり、主な素材が学生時代に扱っていたシルバーから金やプラチナに変わりました。地金の硬さの違いには非常に驚き、特に1、2年目は苦労しましたね。
現在は制作部門のマネージャーとして、デザイナーと職人との制作進行管理を行いながら、もちろん自分自身でも制作を行っています。
JJAジュエリーデザインアワード2025でグランプリを受賞
今回のグランプリ作品は、デザイナーからのラフスケッチを基に、どうやって実際の製品にするかを私とデザイナーで詰めていき、アトリエのメンバー全員で制作しました。この工程は、デザイナーのデザインや想い・考えを汲み取りつつ、私のこだわりである「付け心地」や重さへの配慮なども、デザインに反映する、共に創り上げていく信頼関係で成り立っています。
ジュエリーデザインアワードでは、過去に何度も上位入賞はしていましたが、グランプリを受賞したのは今回が初めてで、本当に嬉しかったです。やはり、グランプリはその他の賞とは全く違うと感じました。
今回の作品は、シンプルで抽象的なデザインならではの難しさがありました。動物や植物といった具象的なモチーフは、完成までのイメージを共有しやすくズレも少ないのですが、今回は線だけで構成され、色も白と黒だけ。そのため、線の太さをわずか数ミリ変えるだけでもイメージが大きく変わってしまうので、ワックスモデルからCADまで駆使して、最も落ち着くバランスを具現化していきました。
特にバングルは、全てのラインが斜めに入っているため、普通に作ると変なつなぎ目ができてしまいます。そこで、斜めに動くように開く構造にし、さらにカチャッと確実に金具が閉まるようにする調整には、微調整の繰り返しで苦労しました。
また、「ブラック&ホワイト」というテーマで、着用したときにできる影と本体との対比も考慮して、時間をかけて作り上げました。

バングル

イヤーカフ

リング
「感謝を忘れずに」を心掛けています
長く職人をやっていますが、常に新しいものを取り入れていくチャレンジ精神を持つ職人であり続けたいです。
CADも最初は抵抗がありましたが、実際に使ってみればCADもヤスリと同じ一つの道具にすぎません。結局、最後に付け心地や美しさを決めるのは人間の目です。新しいものもまず取り入れる柔軟な心を持つことが、職人として成長していくために必要だと思っています。
そして、「感謝を忘れずに」というのを常に心掛けています。以前、展示会で自分の作ったジュエリーを誇らしげに「すごくいいのよ」と言ってくださるお客様に出会いました。これは、作業机の前だけでは味わえない喜びです。それ以来、自分の作った作品を見ると、それをつけてくれる人の顔が浮かんでくるようになりました。作り手の気持ちは作品を通じてお客様に伝わると思うので、マンネリにならず最善のものを作るにはどうしたらいいかと常に考えながら制作する職人でいたいと考えています。
これからジュエリー制作の道を目指す方へ
この仕事の魅力は、オリジナルのものを自分の手で生み出せることです。特にジュエリーは、婚約や結婚など人生の節目で使われ、一生大切にされたり、子や孫に受け継がれていくものでもあります。自分が携わったものを手に取って喜んでもらえるというのは、本当に嬉しいことです。
現在学んでいる学生の皆さんには、失敗も含めて楽しんでやっていってほしいです。それがプロになったときにすごく役立つと思うので、様々なことに挑戦したほうがいいでしょう。私自身も在学中に友達とポップアップショップをやった経験があり、楽しめた上に、お客様の声を直接聞けたのが大きな学びになりました。ぜひ挑戦してみてください。
また、クラスメイトに地方の小売店の後継者がいたので、お願いして実家のお店に作品を置いてもらい、実際に売れたときの喜びも経験できました。
現在はシルバーの地金が高騰していて、思い通りに制作ができない状況があるかもしれませんが、ならば重量の軽いデザインや他の素材を使ったデザインなど、制約が多い中でデザインを考えて作っていくのもまた面白いと思いますよ。
株式会社 今与
1861年(文久元年)京都の五条堺町にて、初代 今西與兵衛(よへい)が簪(かんざし)・櫛(くし)等を取り扱う小間物屋として創業。その後、6代・160年にわたり、本物の装飾品で心を豊かにしたいという想いを貫き通し、現在では、宝飾品の製販一貫企業として、ハイエンドブランド「kagayoi」の他に、アドバンスドブランド「Hyacca」、アニバーサリーブランド「ICHAROI」、ラボグロウンダイヤモンドブランド「SHINCA」等を展開しています。
